------前書き------
 
瑠璃ちゃんのラブものにチャレンジしてみました。
ヒントは姫百合シナリオBAD ENDルートの中での
珊瑚ちゃんのセリフに貰いました。
苦心しましたが、自分の瑠璃ちゃん像を書けたと思います。
話はPS2基準の姫百合シナリオ、アフターストーリー。
ミルファがやって来てしばらく経った頃、と思っていただければ。
ちなみにシルファはまだ来ていません。
それでは、本編の方にどうぞ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「う、う〜ん」
 
ん、起きたかな。傍らで本を読んでいた俺はベッドに目をやる。
 
「おはよう。もうお昼だよ」
 
「あ・・貴明」
 
「まだ熱があるみたいだから、寝てたほうがいいよ。瑠璃ちゃん」
 
 
 
 
 
 
 『ウチの、いちばん』

 
 

今日は日曜日。俺は姫百合家のマンションにいる。
カゼをひいてしまった瑠璃ちゃんの看病をしているところだ。
 
珊瑚ちゃん、イルファさん、ミルファは、どうしても外せない研究所での
発表会と、メンテのため、朝には出かけて行った。
 
「みんなはもう出かけたみたいやな」
 
「うん。イルファさんは最後まで渋っていたけどね」
 
本当に、イルファさんの瑠璃ちゃんLoveは凄い。
どうせ明日にはメンテがあるからと、スリープモードにも入らず一晩中
寝ずに看病してたみたいだし、出かける時も泣きそうな顔をしていた。
 
 
「ただのカゼやっちゅうねん。ほんまに心配性なんやから」
 
そう言いながら、その顔はどことなく嬉しそうだった。
 
 
「まあ、ミルファも行きたくなさそうだったけどね」
 
彼女の場合は、俺と瑠璃ちゃんを二人きりにするのが嫌なだけだけど。
 
 
「貴明、スケベぇやからな」
 
うっ、読まれている。
 
「二人きりやからって、変な事したら殺してまうから覚悟しときや〜」
 
信用ないね、俺。
まあ、憎まれ口をたたいてくるみたいだし、体調は良くなってきているのかな。
 
 
「なんやったら、貴明も出かけてええよ。いい天気みたいやし」
 
「いや、それは止めておくよ。イルファさんにくれぐれも、と頼まれたし
珊瑚ちゃんにも『貴明おれば、安心や〜』って言われたしね」
 
「別に貴明おっても何もでけへんやん・・・まあ、居たいのやったら
おってもかまへんけど・・」
 
 
すっかり慣れてしまった瑠璃ちゃんの意地っぱり。つい微笑んでしまう。
 
「じゃあ居るよ。やっぱり心配だから」
 
「ん・・あんがと」
 
瑠璃ちゃんは、ぽそっとつぶやいた。
 
 
 
 
 
「そうだ瑠璃ちゃん、お腹はすいてない?」
 
時計の針は12時を回ったところ。俺もそろそろ食事をしようと思っていた。
 
 
「朝食べてないんだし、食欲はあまりないかもしれないけれど
何か口にしておいた方がいいよ」
 
「そうやな…って貴明が作るんか?」
 
「いや、イルファさんが作ってくれたお粥があるから。温め直すだけ」
 
「それやったら食べるわ」
 
 
そう言って立ち上がる瑠璃ちゃん。しかし----
 
「あっ」
 
足に力が入らなかったのか、カクッと膝が折れる。
 
 
「あ、危な・・」
 
慌てて受け止めた俺だったが、バランスを崩し----
 
ドサッ!!
ベッドの上に倒れこみ、瑠璃ちゃんを押し倒す形に、しかも…
 
ふにゅっ☆ ・・・左手が胸の上にあった。
 
 
 
瑠璃ちゃんは下で大きく目を見開いて俺を見ている。
 
 
 
 
 
「うおわあっっ!!」
 
数秒の硬直の後、俺は弾ける様に瑠璃ちゃんから離れた。
 
「ゴ、ゴゴゴゴメン!」
 
 
瑠璃ちゃんはうつむいたままパジャマの乱れを直している。
 
 
「ま、まだ歩けないみたいだし、食事はここでした方がいいね」
「じゃ、じゃあ食事持ってくるから」
 
俺は逃げるようにキッチンの方に向かった。
 
 
 
 
 
「はぁ・・・」
 
お粥を温めながら、俺はため息をついた。
 
「何やってんだろ、本当に・・」
 
さっき、変な事したら殺すって言われたばかりなのに・・。
 
 
とはいえ、いつまでもこうしている訳にもいかない。お粥を持っていかないと・・。
 
俺は重い足取りで瑠璃ちゃんの所に向かった。
 
 
 
 
 
「る、瑠璃ちゃん。お粥持ってきたよ」
 
瑠璃ちゃんは俺の方を向いてくれない。
ベッドの上で上半身を起こし、じっと正面を見ている。
 
よく見ると、心なしか顔が赤いようだ。
さっきのドタバタで熱が上がっちゃったのかも。
 
「えっと・・お粥、食べるよね?」
「・・・・・・」
 
「あ、あの・・瑠璃ちゃん・・・」
「・・・・・・」
 
 
やっぱり怒ってるんだよな。
 
「お粥、ここに置くね」
 
仕方なく俺は、お盆を枕元に置き、部屋を出る事にした。
 
 
 
「貴明は食べへんの?」
 
・・え?
部屋を出ようとした俺に、瑠璃ちゃんが声をかけてきた。
 
 
「貴明は食べへんのか?」
 
再び瑠璃ちゃんが聞いてくる。
 
 
「や、俺はキッチンの方で食べようと思って・・」
 
「ここで食べたらええやん」
 
相変わらず、俺の方を向かずに、瑠璃ちゃんが言う。
 
 
 
・・・ええ!?どういう事?
瑠璃ちゃんの真意がつかめない。
俺は恐る恐る聞いてみた。
 
「瑠璃ちゃん、怒ってないの?」
 
「怒る? ああ、さっきのやつ? 何や貴明、わざとやったんか?」
 
「いやいやいや!わざとだなんて!!神に誓って、決して!!!」
 
「ウチを助けようとしただけやろ。だったらここで一緒に食べればええやん」
 
 
 
・・・分からない。
相変わらず状況はつかめなかったが、断る訳にもいかず、部屋に食事を持ってきた。
 
 
「貴明、何でそんな所で食べてるん?」
 
え?・・何となく部屋の隅で食べていた俺に、瑠璃ちゃんが聞いてくる。
 
「こっちきて、一緒に食えばええやん」
 
 
 
・・・どゆこと?
しかし、またも断る訳にもいかず、言われる通り瑠璃ちゃんの隣へ。
 
 
 
「あっ、貴明」
 
ビクッ!こ、今度は何?
 
「ほっぺにソース付いとる」
 
そう言うと、瑠璃ちゃんは指でソースを拭い取り、そして----
 
「ペロッ」
 
・・・舐めてしまった。
 
 
 
ひょっとして------
ここにいるのは珊瑚ちゃんなのかな・・。
 
逃避しかかっている俺。
しかし、現実はさらに追い討ちをかけてくる。
 
 
「貴明、ウチ、冷たいもんが食べたい。冷蔵庫にプリンがあったはずやから持ってきて」
 
言われるがまま、プリンを持ってくる俺。すると----
 
瑠璃ちゃんが口を開けて待っている。
 
 
「あ、あの〜瑠璃ちゃん、それは?」
 
「あ〜ん、や」
 
 
 
「え、えと」
 
「あ〜ん」
 
 
 
「・・・」
 
「あ〜〜ん」
 
 
 
「・・・・」
 
「あ〜〜〜ん」
 
 
・・・・・逆らえませんでした。
 
 
 
 
 
ジャー・・・・
昼食の洗い物をしながら、俺はさっきまでの事を考えていた。
 
どうしちゃったんだろ、瑠璃ちゃん。明らかにおかしい。
いや別に瑠璃ちゃんが甘えてくるのが変って訳じゃないんだけど・・。
 
キッカケは俺が押し倒----じゃなくて倒れこんだ時からだよな。
 
でもすぐに慌てて離れた訳だし、他には何も・・。
 
----やっぱり考えても分からない。
まあ、怒ってるって事はなさそうだから、もう深く考えないでいくか。
 
 
 
 
 
 
一通り片付けが終わった俺は、瑠璃ちゃんの所に行った。
 
相変わらず漂う、何か違和感のある雰囲気。
う〜ん、居づらい。
飲み物だけ置いて、後は瑠璃ちゃんを休ませよう。
 
 
「ここに水は置いておくから。後はゆっくり休むといいよ」
 
「俺はリビングの方にいるから、何かあったら呼んで」
 
 
そう声をかけて部屋を出ようとする。
----が、瑠璃ちゃんに呼び止められた。
 
 
「貴明、ウチ、着替えをしたいんやけど、そこのタンスから
代えのパジャマ取ってくれへん?」
 
「あ、その前に体拭いときたいから、お風呂行ってタオルとお湯、用意してや」
 
そうだな、大分汗もかいたみたいだし、お風呂にも入ってないもんな。
 
 
 
 
 
 
「はい、じゃあこれ。俺は向こうに行ってるから」
 
用意をして部屋を出ようとした俺。
しかし、再び瑠璃ちゃんに呼び止められた。
 
 
「あ、あのな、貴明・・・」
 
「背中の方、自分で拭けへんから、手伝ってくれへんか?」
 
 
 
----ええっ!?で、でもそれはちょっと・・。
 
 
瑠璃ちゃんの方も、さすがに顔を真っ赤にしている。
 
 
「汗、かいてもうたし、ちゃんときれいにしたいから・・」
 
熱のせいもあるのか、潤んだ瞳で見ている。
 
 
「それとも・・それやと貴明Hぃ気分になるんか?」
 
「そんな事、ないけど・・(あるけど・・)」
 
 
「だったら、ええやん」
 
 
 
 
 
 
結局、押し切られてしまった。
 
 
 
 
 
 
ゴシゴシ・・・・
 
後ろを向いている俺の背中から、瑠璃ちゃんの体を拭く音がする。
聞こえていないか気になる程、心臓がバクバク言っている。
 
 
本当に、今日の瑠璃ちゃんはどうしちゃったんだろう。
やっぱり、熱があるせいだろうか?
でもそれだけじゃ、説明がつかないし・・。
 
 
 
 
「貴明、じゃあお願いな」
 
瑠璃ちゃんから呼ばれた。色々と考えていた思考が途切れる。
 
 
 
ゆっくり振り向くと----
 
腕を組んで前を隠し、細く、そして白い綺麗な背中を見せている瑠璃ちゃんがいた。
 
 
 
 
スパークしそうな気持ちを必死に静める。
 
 
 
 
「じゃ、じゃあ背中を拭くね」
 
瑠璃ちゃんは何も答えない。
俺は背中を拭くため、肩に手を置いた。
 
 
 
ビクッ!!一瞬大きく揺れる体。
 
 
 
 
俺はハッとなった。
落ち着いて見ると、瑠璃ちゃんも小さく震えている。
肩に置いた手から伝わる体温も、熱のせいだけではないのだろう。
 
 
 
「瑠璃ちゃん」
 
俺はやさしく呼びかけた。
 
「何があったのか分からないけど、無理はしない方がいいよ。どうかしたの?」
 
 
 
質問には答えず、瑠璃ちゃんは----
 
「・・・・好き?」
 
 
「貴明、ウチの事、好き?」
 
つぶやくように聞いてきた。
 
 
 
突然の事に戸惑う俺。
 
 
 
瑠璃ちゃんはうつむいたまま話し出した。
 
 
「貴明、あまり家に来うへんなったよな」
 
 
確かに、ミルファが俺の家に通う様になってからは、週末のお泊り以外は
あまりマンションの方に行く事はなくなっていた。
 
 
「やっぱり、ウチのせい?・・」
 
力なく、瑠璃ちゃんが言う。
 
「それは違うよ!!」
 
慌てて俺は否定する。
 
 
しかし、軽く頭を振ると、瑠璃ちゃんは続けて話し出した。
 
「ウチ、いっつも貴明の事怒鳴ったり、蹴ったりしとるもん。さんちゃんや
ミルファみたいに甘えたりでけへんもん。イルファみたいに素直になれへんもん」
 
「さっきかて、貴明はウチを助けただけやのに、あんなに慌てて・・・」
 
 
 
そうだった。
最近の幸せな生活の中で、すっかり忘れてしまっていた。
 
瑠璃ちゃんが本当は誰よりも優しくて、そして----弱い女の子だって事を。
 
 
 
かつてイジメっ子達と戦うために優しさを隠し、
弱さを見せないように意地を張り傷ついていった瑠璃ちゃん。
 
そう、珊瑚ちゃんという支えなしでは歩けなくなってしまった程に。
 
閉じた世界の中で自分を守るのが精一杯だった程に。
 
 
俺はその事を知っていたはずなのに・・・・バカだ。
 
 
 
 
「なあ、貴明」
 
しばらく黙っていた瑠璃ちゃんが聞いてきた。
 
 
「貴明はもうミルファとHしたん?」
 
 
 
「な・・」
 
言葉を失う俺。
 
 
 
「やっぱり、してるんや・・・」
 
 
「してない!してないって!!」
 
我に返り、慌てて否定する。
 
 
「じゃあ、さんちゃんやイル----」
 
「してない!誰ともしてない!!」
 
瑠璃ちゃんの言葉を遮って、全面否定する。
 
 
 
 
 
 
「どうしてそんなこ----」
 
今度は俺の言葉が遮られる。
 
瑠璃ちゃんは俺の胸の中にいた。
 
 
 
「ウチ、今、幸せやねん」
 
俺に体を預けたまま、瑠璃ちゃんは話し出す。
 
 
 
「さんちゃん、イルファ、ミルファ、みんな一緒ですごく幸せやんや」
 
「パパやん、ママやんと一緒だった時も、こんな気持ちにはなれへんかった。
でも、それはウチが悪かったから」
 
「この幸せは、貴明のおかげなんや・・・だから----」
 
 
 
「俺だけじゃ、ないよ」
 
やさしく肩を抱いて、瑠璃ちゃんの言葉を止める。
 
 
「珊瑚ちゃん、イルファさんがいてくれたからだよ」
 
そう、みんなが頑張ったから仲直りできたんだ。
もちろん、瑠璃ちゃん自身も。
 
「だから瑠璃ちゃん、無理はしなくてい----」
 
 
次に言葉を止めたもの、それは瑠璃ちゃんの唇だった。
 
 
 
 
 
 
「ウチからキスしたんは、初めてやな」
 
 
 
「貴明、ウチにHぃ事、いっぱいしてええよ」
 
 
 
「あの時とは、ちゃうで・・・」
 
 
そう言った瑠璃ちゃんの瞳は穏やかで、そして強く、
 
俺は------
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ツンツン
 
・・・・
 
ツンツン
 
・・・・
 
誰かが俺のほっぺをつついている。
 
 
 
「う、う〜ん」
 
「あ、貴明起きよった」
 
ん・・俺、寝てたのか。
目を開け声のする方を向くと----
 
 
「おはよう、貴明」
 
 
明るい、天使の様な、瑠璃ちゃんの笑顔があった。
 
 
そうだ、俺たち・・・
 
 
ニコニコ♪
 
・・・・
 
ニコニコ♪
 
・・・・
 
瑠璃ちゃんは楽しそうに俺を見つめている。
 
 
「ど、どうしたの?瑠璃ちゃん」
 
「ん〜♪貴明の寝顔めっちゃ可愛いかってん、思い出しとったんや」
 
 
うっ・・・。
 
 
俺の困った顔を見てさらに----
 
 
「汗拭いたんも、ムダになってもうたな〜」
 
 
イタズラっぽく笑いながら攻めてくる。
 
 
ううっ・・・。
 
こういうのが終わった後って、女性が強くなるって聞いてたけど・・。
 
 
 
 
困った俺に満足したのか、瑠璃ちゃんは軽くキスをすると
 
 
「ほら、シャワーでも浴びてシャキッとしてき!早よせんとさんちゃんや
イルファ達が帰ってくるで、このスケベぇ〜!!」
 
 
パン!!と背中を叩いてきた。
 
 
「〜ッ、分かったよ。瑠璃ちゃん」
 
 
背中に手形を付けられシャワーへ向かう。
 
良かった。いつもの瑠璃ちゃんだ。
 
 
心地よい痛みを感じながら、俺は何となく幸せを感じていた。
 
 
 
 
「あのな、貴明」
 
 
部屋を出ようとしていた俺に、瑠璃ちゃんは照れながら----
 
 
 
 
「あのな、ウチの一番は今でもさんちゃんやけど」
 
 
 
「ウチの一番目は貴明、貴明の一番目はウチ、やな」
 
 
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------後書き------ 素直になった瑠璃ちゃん、いかがだったでしょうか。 自分は瑠璃ちゃんってTH2ヒロインの中で一番甘えん坊だと思うんですよね。 いつもは意地を張ってガードしているだけで。 そこで、そのガードを取り払うため、二人きり+病気という設定を選びました。 あ、関西弁に関してはチェックしてくれる人がおらず自信が・・・。 先に謝っておきます、すいません。 それでは、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。 もしよろしければ、掲示板の方に感想をいただけると嬉しいです。


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