------ 前書き ------
 
さてさて「Sensational Sisters」エピソード編です。
 
今回の物語は、シルファが姫百合家にやってきて少し経った頃、
本編の八話〜最終話の間の話になります。
 
メインはシルファ&このみ、そしてタマ姉です。
あ、それと裏テーマの主役としてはミルファと瑠璃ちゃんも。
 
まあ、詳しい事は後書きで述べるとして……。
まずは、物語スタート!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

  〜 episode of S.S. 〜

『シルちゃん☆このちゃん』 
    
 
 
 
 
 
「ふーん。珊瑚ちゃん達の所にまた新しいメイドロボが来たんだ〜」
 
「うん、シルファって言うんだ」
 
今は放課後、学校の帰り道。街に用事があると言って逃げ出した雄二を除き、
幼なじみ三人組で下校しているところだ。
 
「そうなの、タカ坊も大変ね〜♪」
 
イヤらしい笑みを浮かべるタマ姉。まあ、否定できない今までの経緯はあるんだけど。
 
「……そんなんじゃないよ、あの二人とは違うから! 本当に純真な子なんだよ」
 
シルファ☆ガーディアンズの一員として、その誤解を解く事も兼ね、俺は本題に
入る事にした。
 
「あのさ、タマ姉、このみ、明日時間はあるかな?」
 
「どうかしたの、タカ坊?」
「何かあるでありますか?」
 
「うん。シルファとさ、友だちになってやって欲しいんだ」
 
「「……友だち?」」
 
「シルファはさ、そう、何ていうか……心がまだ子供なんだよ。その上に人見知りが
激しくて、引っ込み思案で……まだ外にも出られないんだ。それでさ、まずは友だちを
作る事から始めたらどうかな、と思ってね」
 
「でも、研究所でも色んな人達と接してはいたんでしょ?」
 
「そうだけど、それはさ、シルファを守ってくれる親代わり、って立場だったと
思うんだよ。多分、同年代の友だち、ってのはいなかったと思う」
 
「う〜ん、それはそうかもね」
 
「俺だって両親や春夏さん達を信頼しているけれども、一緒にいて楽しい、遊びたいって
思うのはタマ姉やこのみ、雄二達だもんな」
 
「このみもそうだよ、タカくん」
 
「だから、シルファもきっと友だちがたくさん出来れば、もっと外向性が出てくると
思うんだよ。それにタマ姉、特にこのみはきっといい友だちになれるはずだし」
 
「……うん、タカ坊も頼もしくなってきたわね。いいわよ、私は。このみは?」
 
「私もOKだよ。何か楽しみでありますよ隊長!」
 
「ふふっ、このみったら。そうだ、タカ坊、何かその子が好きなモノってある?」
 
「え? どうかしたの、タマ姉?」
 
「手ぶらで行くのもなんだし、何かおみやげでも持って行こうかと思って」
 
「それは気にしなくていいと思うけど……そうだな、編み物は好きかな」
 
「ふーん、編み物か。ねえ、タカ坊、その子は他に何かで遊んだりしているの?」
 
「いや、あまり遊んでいる所は見てないな。俺達がゲームをしている時も、後ろで
見ているだけだし。勧めたけど、やりたがらなかったしね」
 
「そっか、それなら……」
 
タマ姉は何か思いついたらしく、ニコニコしている。
小さな子供を惹きつけるのがうまいタマ姉。いいアイデアが浮かんだのかな?
 
 
 
 
「じゃあ、明日の放課後。詳しい事は後でね、タカ坊」
 
「あ、ちなみに分かっていると思うけど、雄二には内緒で」
 
「当然でしょ、言わなくても分かってるわよ」
 
雄二……因果応報、自業自得ってやつだ。悪く思うな。
 
 
 
「タカくん、また明日ね〜」
 
タマ姉、このみとそれぞれ別れ、俺は家に帰ってきた。
 
「おっかえり〜貴明!  ……はい☆」
 
相変わらずの熱烈出迎え。そして目をつむり、唇を前に出すミルファ。
 
「じゃあ、着替えてくるから。コーヒーでも入れててよ」
 
当然スルーして、階段を上がる。後ろから恨めしげな視線を感じるが、気にしないで
おこう。いちいち対応してたら身が持たない。
 
 
 
「ふーん。それじゃ、環さんやこのみちゃんが来るんだ」
 
「ああ、珊瑚ちゃん達には了解を取ってあるし。だからお前も明日は
マンションの方にいろよ」
 
下に降りてきた俺は、ミルファが入れてくれたコーヒーを飲みながら、放課後の
いきさつを話した。
 
「これで、少しでもシルファが変わってくれればいいけどな……」
 
……ん? 気が付くと、ミルファがジト目で俺を見ている。
 
「どうかしたのか? ミルファ」
 
「……貴明、最近シルファの事ばっかり……」
 
「はぁ?」
 
「心配なのは分かるけど、いつもシルファの事ばっかり考えてる……」
 
あ〜あ、またイジケモードに入っちゃたよ。
 
「お前な〜……シルファはまだ子供だろ。何ヤキモチ妬いてるんだよ」
 
「そんなの分かってるけど……」
 
「お前は毎日こうやって俺に会いに来てるじゃないか」
 
「……分かってるよ……でも……」
 
はぁ、しょうがない……。俺も甘いな。
俺はイスから立ち上がると、ミルファの方に向かった。
 
「え……貴明?  ……んっ!?」
 
不意に唇を奪われ、目を開き硬直するミルファ。
……やがて、目を閉じると、俺に体をあずけてきた。
 
長い口づけの後、俺はミルファから唇を離す。
焦点の定まってない瞳、半開きの口、ミルファは上気した顔を見せている。
 
ミルファは不意打ちに弱い。俺はこの無防備な表情を見るのが好きだった。
 
「……ズルイよ」
 
ようやく、意識のはっきりしてきたミルファがつぶやく。
 
「私がこういうの弱いの、知ってるくせに……」
 
目を合わせる事が出来ず、頬を染めているミルファ。
 
「じゃあ、嫌だった?」
 
そんな姿がかわいくて、またイジワルを言ってしまう。
 
「…………バカ」
 
更に、その顔が真っ赤になる。
もう俺も我慢できなかった。そっとミルファを抱き寄せ、耳元でささやく。
 
「……続き、する?」
 
「……うん」
 
俺はミルファを抱きかかえると、二階へ上がっていった。
 
「貴明、大好き……」
 
 
 
 
 
 
 
 
ピンポーン♪
 
「はぁ〜い。どちらさまですか〜」
 
インターホンから、シルファの声が聞こえる。
 
次の日の放課後、買い物をしてから帰るという瑠璃ちゃんと別れて、先に俺、タマ姉、
このみの三人でマンションにやって来た。
ちなみに、珊瑚ちゃんはイルファさんと研究所に行っている。何かミルファにトラブルが
あったそうだ。別に気にする事ではないって言われたけど、何があったんだろう?
 
「俺だよ、シルファ。ロックを解除してくれるか」
 
「あっ!? パパ、来てくれたの! うん、今開けるね」
 
自動ドアが開く、さて、中に----
あれ? タマ姉とこのみが何か驚いた様な顔をしているけど……。
 
「「 パパ……? 」」
 
あっ、ヤバ! その事を忘れてた。
 
「タ、タカくん……」
「タカ坊、そんな趣味が……」
 
「いやいや、もうこの位じゃ俺は動揺しませんよ。珊瑚ちゃんがママだから、
俺はパパ、それだけ。以上!」
 
「タカくん、大人なんだね……」
 
……今日は突っ込み無しの方向で行きますデスよ。
 
 
 
「パパ、お帰りなさい♪」
 
ドアを開けると、いつも通りシルファがギュッと抱き付いてきた。
 
「ただいま、シルファ。今日はね、紹介したい人がいるんだ」
 
「えっ……!?」
 
『紹介したい人』という言葉に反応してビクッとなるシルファ。
 
「こんにちは」
「こんにちは〜」
 
シルファは俺の肩越しに挨拶をしたタマ姉とこのみを見たが、またすぐ俺の胸に顔を
うずめてしまった。
まあ、最初は仕方ないよな。俺もそうだったし。
 
「とりあえず中に入ろう。二人とも上がって」
 
俺にしがみついているシルファを連れて、二人をリビングに通す。
相変わらず俺のそばを離れないシルファに対面する形で座ってもらった。
 
「シルファ、怖がらなくてもいいよ。この人達はパパの友だちだから」
 
「パパの……友だち?」
 
「うん、シルファの友だちにもなってくれるって。だから、連れてきたんだよ」
 
そして、俺は改めて二人を紹介した。
 
「まずは、向坂環さん。パパのお姉さんみたいな人だよ」
 
「こんにちは、シルファちゃん。向坂環よ、よろしくね」
 
「えと……」
 
モジモジしているシルファ。
 
「ん? どうしたの?」
 
やさしい眼差しで、シルファの顔を覗き込むタマ姉。そして、
 
「お名前、ちゃんと言える?」
 
やわらかな陽射しのような、あたたかな笑顔を向けた。
季節はもうすぐ冬だが、ここだけは春になった様な感覚。
 
「あの……シルファです。よろしくね、環お姉ちゃん」
 
シルファも、心の壁を溶かされた様にやわらかな表情になる。
 
「パパ……環お姉ちゃん、ママと同じ匂いがする……」
 
それはきっと、感覚的なものなのだろう。母性という名の包容力、お日さまの香り。
タマ姉が子供に好かれる訳が、今ちゃんと分かった気がした。
 
「じゃあ次は、柚原このみさん。パパの妹みたいな子だよ」
 
「よろしくね、シルファちゃん」
 
「…………」
 
「……えへ〜」
 
「〜〜〜〜」
 
……なんだろう、この感覚。
例えるなら、公園で初めて出会った子犬同士の挨拶みたいだ。
この二人、子犬チックにも程があるな。
 
「はい、二人とも。恥ずかしがってないで、握手」
 
微笑ましくその光景を見ていたタマ姉が、二人の手を結ばせた。
 
「えへへ……よろしくね、シルファちゃん」
 
「……うん、このみちゃん」
 
えっ!? 今、ちゃん、って……。お姉ちゃんじゃなくて……。
 
二人は両手で手を握り合って喜んでいる。シルファはこのみに自分に近い何かを
感じ取ったみたいだった。このみはシルファの友だち第一号だな。
 
 
 
ピンポーン♪
 
インターホンのチャイムが鳴る。モニターを見に行くと、瑠璃ちゃんだった。
 
「ただいま〜」
 
「おかえり〜、瑠璃お姉ちゃん」
 
「いい子にしとったか? シルファ」
 
いつものお出迎えに、笑顔で頭をなでてあげる瑠璃ちゃん。
お姉ちゃんモード全開だ。
 
「お、タマ姉ちゃんも、このみもおるな。シルファ、二人とは仲良くなれたん?」
 
「うん。シルファね、環お姉ちゃんと、このみちゃんとも、仲良しさんだよ」
 
俺と瑠璃ちゃんは互いに微笑み合う。
シルファ☆ガーディアンズとして、喜ばしい限りだ。
 
 
----しかし、例によって、シルファの天然爆弾が投下された。
 
「そうだ、一緒にお風呂に入ろうよ。環お姉ちゃん、このみちゃん、瑠璃お姉ちゃん。
……あと、パパも!」
 
しまった、シルファにはこれがあったか……。
今や姫百合家では、みんなが帰宅した後、シルファが誰かと大好きなお風呂に入るのが
恒例行事みたいになっているのだ。
 
「えっ!? タ、タカくんも……?」
 
このみはすでに顔を真っ赤にしている。
 
「いや、シルファ。この後みんな帰らないといけないから。日が落ちるともう寒いし、
湯ざめとかしちゃうといけないだろ?」
 
うん、我ながら理路整然とした理由だな。
 
「あら、何だったら家から車を呼ぶわよ。みんなでお風呂、楽しそうでいいじゃない」
 
うぉぉぉぉぉい! そこ!! ……ああ、今日は突っ込み無しって決めてたのに……。
タマ姉の方を振り向くと、アヤしい視線で俺を見ていた。
 
「私も成長したタカ棒☆に、興味があるしね〜♪」
 
ヤバイ……マジだ。何か変な言葉のニュアンスを感じる。
今までのいい話がブチ壊しだよ……。仕方がない、それならいっそ----
 
「シルファ、ゴメンな。パパは今日瑠璃ちゃんとお風呂の約束をしていたんだ。
だから、今日はタマ姉とこのみとで入っておいで」
 
「ちょっ……何言うて----」
 
驚く瑠璃ちゃんの言葉を軽いハグで止め、俺は耳打ちをした。
 
(仕方がないんだ、瑠璃ちゃん。一度動き出したタマ姉は誰にも止められない。
ここはシルファ☆ガーディアンズとして耐えてくれ。俺が一緒に入ったら、
おそらく風呂場は戦場になる!)
 
(くっ……! しゃあないな……)
 
「そ、そうなんやシルファ。三人で入ってき」
 
「ふ〜ん、パパと瑠璃お姉ちゃんラブラブだね♪ 分かったよ、行こう、
環お姉ちゃん、このみちゃん」
 
「やるわね、タカ坊……」
「やっぱり、タカくん大人なんだ……」
 
……ええ、この位の辱めは甘んじて受けますとも! 俺は戦士さ!!
 
 
 
三人がお風呂に入っている間、瑠璃ちゃんは夕食の下準備を、俺はキッチンの
テーブルに座って瑠璃ちゃんと雑談をしていた。
 
「なあ、貴明。ウチらホンマに一緒に入らなアカンの?」
 
「……ああ。スルーしたらタマ姉が何してくるか分からないし、多分シルファにも
色々と質問攻めにあうぞ」
 
「はぁ……(ま、たまにはええかな)」
 
ん? 最後の方は良く聞こえなかったけど、何て言ったのかな?
 
 
「パパ〜、あがったよ〜」
 
お、三人がお風呂から上がったみたいだな。
早くもウサギ柄のパジャマに着替えているシルファが、キッチンに入ってきた。
 
「えいっ! パパのイス〜♪」
 
シルファが楽しそうにヒザに乗ってくる。これも恒例のお風呂上りのイス……って!
 
ううっ! キッチンの入り口から感じる強烈な視線----
 
しまった……またヘマをやらかしたであります瑠璃隊長!!
 
「タカ坊のイス……」
「それはこのみのシナリオなのに…」
 
 
緊迫感ただようキッチンの中、シルファが更に天然爆弾を投下!
 
「このちゃん、座りたいの? じゃあ、こっちへどうぞ」
 
「えっ!? シルちゃん……」
 
シルファは片方のヒザに身をずらした。
 
 
わぁ〜、シルちゃん、このちゃん、だって♪ 二人ともすっかり仲良しさんだね☆
……って現実逃避している場合じゃねーー!!
 
「いや、シルファ。ここはね、基本的にシルファ専用なんだよ」
 
「シルファなら別にいいよ。このちゃんと二人で座りたいもん」
 
「いやいや、このイスは一人掛けなんだ。残念だけど重量制限もあるしね」
 
「そっかぁ、それなら仕方ないね……ゴメンね、このちゃん」
 
このみを見ると、本当に残念そうな顔。
コイツ、OKが出たら本気で座る気だったな……危なかった。
 
 
----しかし、更に試練は続く。
 
「あっ、そうだ、パパ。このちゃんとね、シルファ、仲間なんだよ」
 
「仲間? 何の?」
 
「あのね、まだないんだよ」
 
「ないって、何が?」
 
「えと……この間イルファお姉ちゃんとミルファお姉ちゃんに教えてもらった
言葉が……。そう! パイパ----」
 
「ひゃわわっ!? シ、シルちゃん……」
 
「どうしたの? このちゃん」
 
「どうしたのって……。〜〜〜〜」
 
……あの二人、どうしてくれようか。
 
いや、俺が手を下すまでもないな。調理場の方から凍気を感じる。
----そう、ダイヤモンド○ストを撃てる程の。
イルファさん、ミルファ、君たちの未来は決まったよ。
 
 
「変なの、このちゃん。あ、それとね、環お姉ちゃんも凄いんだよ!」
 
……ああ、嫌な予感が。
 
「ミルファお姉ちゃんも大きいんだけど、もっと凄いの!」
 
やっぱり、そっちの方向デスね……。
 
「それにね、パンパンのミルファお姉ちゃんと違って、あ〜んなに大きいのに、
と〜っても、ほわほわしてるんだよ」
 
シルファは、手をワキワキと動かす。
 
「ふふっ、シルファちゃんたら……。あら、タカ坊、どうしたの♪」
 
……シルファ、そんな素敵に想像が働く様な表現はやめてください。
 
うっ!! 調理場の方の凍気が更に高まっていく。しかも俺の方に向かって。
こ、これは----オーロラ○クスキューションさえも……。
い、いかん。ここは戦略的撤退を!
 
「じゃ、じゃあ、シルファ。俺達お風呂に入ってくるから」
 
俺はヒザの上からシルファを下ろすと、瑠璃ちゃんの手を引き風呂場へ向かった。
 
「タカ坊〜、ごゆっくり〜」
 
「すぐ出るから!」
 
お願いデスからこれ以上刺激しないで下さい……。
 
「あんまり早いと、嫌われるわよ〜」
 
……もう絶対突っ込まねぇ!!
 
 
 
 
はい、私は今、湯船の中。瑠璃ちゃんは体を洗っているところデス。
あたたかいお風呂の中なのに、何か寒いのは何故でしょうね……。
 
「……なんや、なに人の体ジーッと見とるんや、このヘンタイ」
 
「い、いや。何か二人でこうやってユックリお風呂に入るのも久しぶりだな〜っと……」
 
「……フン」
 
お風呂に入ってから、ずっとこの調子。まあ確かに少し想像した俺も悪いんだけど……。
あんな事やられたら、健全な男子学生なら仕方ないデスよ……。
 
 
「……やっぱり、大きい方がええの?」
 
「え?」
 
不意に、瑠璃ちゃんが聞いてきた。
 
「その……胸……大きい方が……」
 
あ〜……。やっぱり、気にしてるんだ。
 
「い、いや、そんな事はないよ」
 
「でも……」
 
「ほ、ほら、確かに瑠璃ちゃんはあまり胸は----ないけど、凄く----がいいから……」
 
「〜〜〜〜」
 
うわ、ヤベ! お、俺、何言ってんだ!!
 
「このスケベぇ……」
 
瑠璃ちゃんは、体を流していたシャワーを俺の顔にかけてきた。
 
「ぶっ!?」
 
ああ、もう……。ひどい目に合ってんな……。あわてて、顔の水滴を払う。
 
え!?
 
まだ閉じている目の前が少し暗くなったと思った瞬間、俺の体の上に感じる体重。
ちゃんと水滴を拭い目を開けると----イジワルな笑みを浮かべた瑠璃ちゃんがいた。
 
「あ、あの〜瑠璃ちゃん……?」
 
「ん? 貴明のイス〜や」
 
改めてヒザの上に感じる彼女の柔らかさと重み。
いや、あの……向きも違うんですけど……。そ、それに、その〜……。
 
「どないしたん、貴明?  ……あ☆」
 
瑠璃ちゃんは俺の変化を見逃してはくれませんでした……。
 
「元気やな〜、貴明♪ でも……」
 
瑠璃ちゃんは俺の首に手を回し、ギュッと抱き付くと、
 
「……でも、今はおあずけや。今週末はウチの番やろ、その時、ユックリ、な」
 
そう囁き、軽いキスをして風呂場を出て行った。
 
……瑠璃ちゃん、これって蛇の生殺しだよ。かえって辛いデス……。
 
 
 
 
お風呂から上がると、リビングの方から楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
 
「あら、上がったのね、タカ坊。お疲れ様」
 
「……疲れてないよ。それより、何か楽しそうだけど?」
 
「ふふっ、あれよ」
 
タマ姉が目配せした方を見ると、シルファとこのみが指に毛糸を絡ませて遊んでいた。
 
「あれって……あやとり?」
 
「そう、あやとりよ、タカ坊。あなた達がお風呂に入っている間に教えたの。
ほら、昨日おみやげを持ってくるって言ってたでしょ」
 
良く見ると、二人は下に置いた本を見ながら遊んでいる様だ。
 
「あの本?」
 
「そう、私が小さい頃おばあ様にもらった物よ。本棚にあったのを探してきたの。
編み物が好き、ってので何となくピンときたのよ。でも、ビンゴだったみたいね」
 
二人とも、本当に楽しそうだ。シルファも俺がお風呂から上がったのを気付かない程
夢中になっている。こんなシルファは見た事がなかった。
さすが、タマ姉だな。
 
 
「じゃあ、このちゃん。次はこの二人でやるのをしようよ」
 
「うん、この『もちつきぺったん』だね。えと……こうして……」
 
「シルファはこうかな……うん……ここで親指と小指を外して……」
 
「やたー☆ 出来たよ! じゃあシルちゃん、右手から動かすね」
 
「いいよ、このちゃん。せーの、ぺったん……ぺったん」
 
「出来た☆ 出来た☆ ぺったん、ぺったん」
 
毛糸を通して、交互に互いの手が合わさりあう。なるほど、『もちつきぺったん』か。
 
「「ぺったん☆ ぺったん☆」」
 
……楽しそうだな〜、二人とも。本当に似た者同士だよ。
その微笑ましい風景に惹かれ、俺は二人の所に行った。
 
「シルファも、このみも、楽しそうだな」
 
「あっ、パパ、上がったんだね。うん、楽しいよ。環お姉ちゃんに教えてもらったの。
そうだ、これ見て!」
 
シルファはあやとりを始めると、器用にその形を変化させていく。
 
「えとね、まず……『ほうき』。で、ここをこうして……『やぶなかのいっけんや』。
あと、ここをつまんで……『はさみ』」
 
「ほわ〜……。シルちゃん、もう出来てる……」
 
「『へんしんあやとり』って言うんだよ。パパ、シルファすごい?」
 
「うん、シルファはすごいなぁ〜」
 
「えへへ……じゃあ、あの〜……パパ?」
 
モジモジしながら、いつもの上目遣い。シルファはシッポを振っている(イメージ)。
 
「しょうがないな、ほら」
 
やさしく、なでなで。
 
「えへ〜……」
 
幸せ120%の笑顔のシルファ。
 
「む〜。ほ、ほら、タカくん、このみもすごいよ」
 
必死に対抗してあやとりを始めるこのみ。お前もかよ……。
 
「ったく……分かったよ、ほら」
 
もう片方の手で、このみもなでなで。
 
「えへ〜……」
 
こっちもシッポを振って(イメージ)幸せ120%だ。
 
「「 えへ〜…… 」」
 
パタパタパタ……(イメージ)  ……ホントに二匹の子犬だな。
 
「えっ? パパ、子犬って?」
 
あっ、声に出ちゃったか。
 
「いや、シルファがね、子犬みたいにかわいいな、って」
 
「そ、そんな……パパ」
 
恥ずかしそうにうつむくシルファ。しかし、少し何か考えたような後、
 
「パパ、子犬さんは好きですか?」
 
そう聞いてきた。
 
「う、うん、好きだよ」
 
良く質問の意図がつかめず、生返事の俺。すると、おもむろにシルファは----
 
「ク〜ン」
 
そう言いながら、俺の頬をペロペロと舐めてきた。
 
「シ、シルファ!?」
 
「子犬さん、です。……パパ、大好き」
 
トロトロの笑顔で俺に抱き付くシルファ。本当にこの子は……。
 
 
「いいなぁ、シルちゃん。このみも、タカくんの犬になりたいな……」
 
……いや、このみ。それはちょっと意味が違うから。
 
「私は、タカ坊をワンちゃんにしたいわね……」
 
…………ノーコメント。
 
 
「お〜い、みんな、食事が出来たで〜」
 
キッチンの方から瑠璃ちゃんの声が聞こえた。
 
「じゃあ、行こ、このちゃん」
「うん、シルちゃん」
 
二人は仲良くキッチンへ向かって行った。
 
「タマ姉、食事って?」
 
「ん? タカ坊、少しお風呂から出てくるのが遅かったでしょ。何をしてたのか
知らないけど♪ その間に話が決まったのよ、みんなで食事をするって。私が
シルファちゃんとこのみの相手で、瑠璃ちゃんには料理を作ってもらってたの」
 
「……何もしてないよ。でも、珊瑚ちゃんとか待っとかなくていいのかな?」
 
「あ、さっき電話もあったわよ。瑠璃ちゃんに聞いてみたら?」
 
俺達もキッチンの方に移動した。
 
 
「瑠璃ちゃん、珊瑚ちゃんやイルファさん達どうしたの? ミルファに何か?」
 
「……ああ、あのアホ二人組な」
 
どうやら、瑠璃ちゃんはシルファのパイパ○発言ですっかりお冠の様子だ。
 
「さんちゃんは少し遅れるみたいや。ミルファの緊急整備の手続きとかで」
 
「緊急整備!? どうかしたの?」
 
「貴明、昨日ミルファとお楽しみやったやろ? 一緒にお風呂に入ったイルファが
跡を発見したみたいやで」
 
「うっ……いや、ちょっと事情があって……」
 
「……まあ、ええけど。それでな、二人でケンカになってちょっと歪んでもうた
らしいんや。キッカケはミルファの「腹黒エロファ!」発言やったらしいけどな」
 
……ついに歪んだか。ミルファ、南無。
 
「で、ついでやから、もう一人のアホにはミルファが直るまで研究所での謹慎を
言いつけとった」
 
……あなたには同情はしませんよ、イルファさん。
 
 
 
 
みんなで夕食とその片付けをした後の、お別れの時間。
予想された事とはいえ、やはりシルファはお別れを渋っていた。
 
「帰っちゃヤダよ……このちゃん……」
 
「シルちゃん……。う〜ん、でも……」
 
「シルファ、このみは着替えも持ってきてないし、明日の学校の用意もしないと
いけないから……」
 
「…………」
 
「シルちゃん、また遊びに来るから……」
 
「…………」
 
シルファはうつむいて、何も言わなくなってしまった。ふ〜、困ったな……。
でも、ここまでグズるのも珍しいな。最近は色々と嫌がる事はあっても、
説明すれば分かってくれていたのに……。
 
「ね、シルちゃん、今度じゃダメなの?」
 
このみの問いかけに、相変わらず黙ったままのシルファ。しかし----
 
「……今度って、いつ……」
 
何か抑揚のない声で、つぶやく様にこのみにそう言った。
 
「え、いつ……って……」
 
少し様子の違うシルファに戸惑っているこのみ。
どうしたんだろう? 確かにいつもと様子が違う。
……あれ? 良く見ると、シルファの体が小刻みに震えていた。
 
「……ねえ……いつなの……?」
 
そう言って、顔を上げたシルファは------泣いていた。
もちろん、シルファはイルファさんやミルファと同じ様に涙を流せない。
でも……分かった。確かにシルファは泣いていた。ここにいる全員、そう感じていた。
 
「今度って、いつなの? いつって、いつなの!? シルファはいつまで待てばいいの!?
……また、いつまで待ってればいいの……? いつまで……」
 
それは、シルファがマンションに来てから見せた、初めての激しい感情の激流だった。
 
 
「シルファ……」
 
あまりの事に、うまく声をかけられない俺。
 
しかし、俺の声を聞いたシルファはハッとした表情になり、
 
「あ……。ゴメンなさい……シルファ、わがまま言って……。みんな、ゴメンなさい……」
 
おびえるように、あやまってきた。
 
 
 
……あぁ何やってんだ俺は!!
 
ここにきて、俺はその事に気が付いた。
そう、シルファはみんなに気を遣っていたんだ……。まだ、ずっと、怖がっていたんだ……。
 
研究所にいた時も、ここに来てからも、自分を守ってくれる人達に対して、みんなが
心配をしすぎないように、迷惑をかけないように……。
そして、その事で、自分の居場所がなくなってしまわないように……。
 
頭のいいシルファは、俺達の都合を理解してくれているんだと思い込んでいた。
そのやさしさも、ただ子供の持つ素直さから来るものだと……。
 
でも、それだけじゃなかった。
シルファが自分と通じ合う者に対してどこまでも優しく素直なのは、寂しいという事の辛さを
誰よりも良く分かっていたから……そして、その純真さ故にだったんだ。
 
きっと、感情が爆発したのは、今までのシルファの人生で最も自分に近い存在である
このみと知り合ったから。
守ってくれる存在とは違う、自分と同等の立場で支え合える仲間。
 
初めて出来た『友だち』だったから……。
 
 
 
スッ----どうしていいか分からず、とりあえずシルファに声をかけようとしていた
俺を、タマ姉が止めた。
 
どうして? 目で聞く俺に、クイッとアゴでこのみの方を指す。
見ると、このみがシルファの方に歩み出たところだった。
 
 
「シルちゃん、これ、あげる」
 
キーホルダーを持ったその手を、シルファに差し出す。
確かあれは、前に俺ももらった事のある、ペンギン型のやつだ。
 
「え……。このちゃん、これって……?」
 
「ヨシオだよ。このみのラッキーアイテムなんだ。いつも離さず持ってるんだよ」
 
「そんな……悪いよ。それに……どうして?」
 
このみはいつもと変わらぬ無邪気な笑顔を見せると、シルファの手にキーホルダーを
手渡し、明るく言った。
 
「大丈夫だよ、家にもう一つあるから。……これで、いつもこのみと一緒でしょ」
 
「このちゃん……」
 
「それに、このみとシルちゃんはもうお友だちなんだから☆ いつだって、そう
明日だって明後日だって会えるよ!」
 
「……うん、そうだね」
 
ギュッと手の中のキーホルダーを握り締めるシルファ。ようやく、その顔に
微笑みが戻ってきた。
 
「もう、大丈夫ね?」
 
その様子を微笑ましく眺めていたタマ姉が、シルファに歩み寄って行く。
そして、やさしくその肩を抱いた。
 
「それにね、待っていなくても、シルファちゃんがこのみの所に遊びに行っても
いいのよ。もちろん、私の所にも」
 
「私が……」
 
タマ姉の言葉に、不安げな瞳になるシルファ。しかし、
 
 
「……うん。シルファ、頑張ってみる」
 
まだうつむいたままだったが、ハッキリとそう言った。
 
「そっか……うん、シルファはいい子ね。でも、無理はしなくていいのよ。
少しずつ、自分のペースでね」
 
「……ありがとう、環お姉ちゃん」
 
やさしく頭をなでるタマ姉に、シルファは甘える様に、力一杯抱き付いている。
 
本当に、今日は二人を連れて来て良かったな……。
 
 
 
 
 
 
「タマ姉、このみ、今日は本当にありがとう」
 
タマ姉が呼んだ帰りの車の中で、俺はお礼を言った。
 
「何言ってるのよ、タカ坊。私は別に何もしていないわよ」
 
「そうだよ、タカくん。このみの方がお礼を言いたい位だよ。シルちゃんみたいな
いい友だちを紹介してくれて」
 
 
全くこの二人はお人好しと言うか何というか……。頭が上がらないよ。
 
 
「でも、今日の一番の功労者はこのみね。良くやったわよ」
 
「そ、そんな、タマお姉ちゃん……」
 
「ううん、このみは偉い! よし、ごほうびをあげるわね」
 
タマ姉はこのみの頭をなで始めた。
 
「タ、タマお姉ちゃん……」
 
恥ずかしがってはいるが、このみは嬉しそうだ。
 
「そうだな、うん、このみは偉い!」
 
このみを挟んで向かい側に座っていた俺も、なでなでをする。
 
一瞬ビックリした表情を見せたこのみだったが、すぐに目をつむり、
うっとりとした表情になった。
 
タマ姉も、俺の方を向くと、やさしく微笑んでくる。
 
 
(本当にありがとう)
 
幸せそうなタマ姉とこのみを見ながら、俺は心の中でもう一度感謝の言葉を繰り返す。
 
車の振動と、二人のあたたかさが心地よい、秋の終わりだった。
 
 






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------ 後書き ------ いかがだったでしょうか。『シルちゃん☆このちゃん』終了です。 今回のテーマは、シルファの弱さ、というか負の部分を描く事でした。 『S.S.』本編ではそのかわいらしさだけしか表現出来ていなかったので、自分の中の 本当のシルファの姿というものを分かってもらうために、この物語を書きました。 前振り長くなりましたが……。泣かせてゴメンね、シルファ。 あと、前書きに書いた裏テーマとは、ズバリ「H分補充」です。 TH2本編にあって、私のSSに足りなかったモノ、それはH分だと気付き、 ちょっとだけ、ミルファと瑠璃ちゃんに頑張ってもらいました。(方向性、間違ってる? これくらいはエロじゃないですよね? Hですよね? 今回の作品を「エロカワイイSS」と思っていただけたのなら嬉しいデス。 さて、子犬チックコンビ、シルファ&このみの今後の活躍に期待しつつ、お別れです。 では、次回のエピソードまで、ごきげんよう。 ご意見・感想等、掲示板の方にいただけると嬉しいです。 by HIRO


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