キーンコーンカーンコーンー

         キーンコーンカーンコーンー

「はーい、今日のホームルームはこれで終了でーす」

委員ちょの声と同時に席を立つ。

「おーい貴明、ゲーセンよって帰ろうぜ」

「ごめん雄二、今日は先に帰る」

返事をするのも億劫とばかりに荷物を持って駆け出す。

「お、おぃ・・・」

雄二が後ろでなんか言ってるが知ったことではない。今日は早く家に帰らないと・・・



バレンタイン狂想曲    作 静星 鴉陰


「タカ坊、そんなに急い・・・で・・・」

「あ、タカく〜ん、一緒に帰・・・ろ・・・ぅ・・・」

途中聞きなれた声がしたけど構っていられない。今日だけは光よりも早く家に帰らないと・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

「っはぁっはぁっはぁっ・・・」

やっと家に着いた。郵便受けを光の速さで確認・・・

・・・あれ?

もう一度確認・・・

・・・からっぽ?

さらにもう一度確認・・・

・・・やっぱりからっぽだ。

ささらと付き合って初めて迎えるバレンタイン。
ささらはまだアメリカにいる。
クリスマスにアメリカまで会いに行った時に

「貴明さん、バレンタインにはチョコ送るから楽しみにしてて」

っていわれたから急いで帰ってきたんだけど・・・
(ま、いいか。今日中には届くだろうし)
郵便受けの蓋を閉め、そのまま自分の部屋まで駆け上がっていった。

   ピンポーン

きた!

自分の部屋で一寸だけまじめに宿題をしていた夕方。
そわそわしてあんまり捗らなかったけど。

   ピンポーン

はいはい、今行きますよ。判子を持って・・・

   ピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポーン

あれ、何かおかしい。怪訝な顔をして玄関に向かう。

「こらー、たかりゃーん。早く開けるのだー」
「早くあけないとこの扉、まーりゃんキックでぶち破るぞー」

って、まーりゃん先輩?いったいこんな時間にどうしたんだろう。
早く開けないと何を言い出すか分からないからなぁ、まーりゃん先輩。

   かちゃ

「こら、たかりゃん、チャイムがなったらさっさと鍵開ける!
 寒空の中こんなに待たせるなー!」
「さっさとあったかいコーヒー持ってくる!」

相変わらずだなぁ、まーりゃん先輩。って、またいつもの制服着てるよ・・・

「で、今日は何しに来たんですか?」

「たかりゃんは今日が何の日か知らないのか?」
「2月14日だぞ、バレンタインだぞ?」

「で、バレンタインだとどうしてまーりゃん先輩が家に来るんですか?」

「よくぞ聞いてくれた、たかりゃん」
「今日はたかりゃんにチョコを持ってきたんだ」

(じーっ)

「本命チョコだぞ」

(じーっ)

「うぅ、いらないのか?本命だぞ」

ふぅ、ため息一つ。

「まーりゃん先輩は俺がささらと付き合ってるの知ってますよね」

「もちろん知ってるぞ」
「あたしもたかりゃんのこと好きだからな。だから本命チョコだ」
「義理じゃないぞ」

「ささらに悪いからそれは受け取れません」

「あたしのこと、嫌いなのか」
「そうか、たかりゃんはサクランボよりメロンのほうがいいのか」
「それとも数の子より蛸壺のほうがいいのか」

(じーっ)

「うぅぅ、じゃぁしょうがない。義理にしてやるから受け取れ」
「せっかく作ったんだ」
「おいしいぞ、多分」

・・・しょうがない。受け取らないと後で何をされるか分からない。

「それじゃあありがたく受け取ります。どうもありがとうございました」

「うむ、素直でよろしい」
「それじゃあ今から食べるぞ」

そういうと靴を脱ぎ、リビングに向かっていくまーりゃん先輩。

「ちょ、一寸まって」

あわてて後を追いかける。すでにまーりゃん先輩はソファーに座っていた。

「ほら、たかりゃん、食べるぞ」

って、もう包装紙剥いちゃってるし。実は自分が一番食べたかったのだろうか?

「実はこれ、あたしの手作りなんだぞ」

「え゛、まーりゃん先輩料理できたんですか?」

「失礼なやつだな、たかりゃんは。あたしは世界料理検定1級だぞ」

「なんですか、それ」

「世界中の料理をどれだけ作れるかって試験。10段まであるって話だぞ」
「ま、それは置いといて。たかりゃん、はやくはやく、あけて」

まーりゃん先輩に促されるまま箱からチョコレートを取り出す。

「・・・まーりゃん先輩、なんですか、これ」

「なんですかとはなんだ?」
「ハート型のチョコレートではないか」
「たかりゃんの目は節穴か?」

「って、これ、どうみても心臓の形をしているじゃないですか」

「うん、そうだぞ。ハートの形してるじゃないか」
「あたし何かおかしいこと言ったか?」

「確かにheartって心臓って意味ありますけど・・・」

じっくりと手にとってみる。
大動脈に肺動脈、大静脈に冠動脈・・・こんなところまでリアルに作らないでも・・・

「で、たかりゃん食べないのか?」

「ちょっとリアルすぎて・・・」

「あたしの作ったものが食べれないというのかー」
「このブルジョワめー」
「ほら、食え、食うんだー」

両手に心臓の形をしたチョコレートを持って向かってくるまーりゃん先輩。
怒った顔がちょっとプリチー。

「た、食べますから押し付けないで下さーい」

「うむ、分かればよろしい」

一つを手に取る。大きさは3cm×2cm位だ。
チョコの表面には細い血管まで再現されていて、結構グロテスクだ。

「絶対においしいぞ、たかりゃん」

意を決して口にほおり込む。

   ぐにゅ

口に入れたチョコを噛み砕くと、甘酸っぱく、尚且つアルコールなのかなって味がする。

「ま、まーりゃん先輩、中に何を入れたんですか?」

「ん、中か?中には赤ワインで作ったゼリーを入れてみたぞ」
「やっぱ、リアリティは大事だからな」

「そんなところまで再現しなくても・・・」

「で、たかりゃんたかりゃん、どうだった?おいしかったか?」

「まぁ悪くはないと思いましたけど・・・」

「あたしの作ったチョコだからおいしくないのか、
 さーりゃんのだったらおいしいっていうのか」
「このー、ラブラブ光線をそこら構わず巻き散らかしてー」
「おいしいっていえー」

そういいながら首を絞めてくるまーりゃん先輩。

「ちょ、ちょっとまっ・・・」

   ピンポーン

   ピンポーン

「あ、まーりゃん先輩、誰か来たみたいだから離して下さい」

「ち、しょうがない。離してやろう。だけど逃げるんじゃないぞ」

「逃げませんってば」

そのまま判子を手に持って玄関に向かう。

   がちゃっ

「こんばんわ、タカ坊」

「タカ君、こんばんわであります」

「よ、貴明」

「タマ姉にこのみ、それに雄二も。どうしたんだ、いったい」

(なんだ、ささらからのチョコじゃないのか)

「今日はさっさと帰るからなにかあったのかなーって気になってね」
「タカ坊のことだから、久寿川先輩からチョコを楽しみにしてさっさと帰っちゃったのかなー?」

「う゛」

「やっぱりね。タカ坊のことだからそうだと思った」

「で、貴明、いとしのささら先輩からチョコは届いたのか?ちょっとみせてみ」

「残念ながら届いてないんだ」

「あら、そう」

からかうネタがなくなったタマ姉がぽそっと呟く。

「で、用事ってそれだけ?」

「わたしはタカ君にこれをわたしに来たのであります」

取り出したるはきれいにラッピングされたチョコレート。

「はい、これ」
「もう本命チョコっていって渡せないのが残念なのです、隊長」

「ありがとう、このみ」
「もしかして、タマ姉も・・・」

「せっかくのバレンタインだからねぇ、
 チョコをあげるだけってのも芸がないから
 今日は私が腕によりをかけておいしいものを作ってあげにきたの、このみも誘ってね」
「あ、雄二は唯の荷物もち」

「姉貴、それひどいよ」

「何か言った?」

「なんでもありません」

「春夏さんの料理もいいけど、たまにはあたしの手料理も食べさせてあげないとね」

「ありがとうございます、タマ姉」

「愛しのタカ坊の為だもんね(いつかこっちに振り向かせてやるんだから)」
「それじゃあ台所借りるわよ」

そういいながら靴を脱ぐタマ姉。

「あれ、お客さんいるの」

いつもより一足多い靴を見て尋ねる環。

「うん、まーりゃん先輩が来たんだよ」

「え、まーりゃん先輩ってあの・・・」

「そう、あのまーりゃん先輩」

「ふーん、そうなんだ。タカ坊、ささらって人がありながら・・・」

ふっと周囲の気温が10℃位下がった気がする。

「そんなんじゃないから、タマ姉」

「ならいいけど・・・」

「貴明、材料運ぶの一寸手伝ってくれよ」

「おじゃましますであります」

そのまま料理の準備に取り掛かるタマ姉とこのみ。
まーりゃん先輩はテレビをつけてソファーで横になっていた。

「ん、どうした、たかりゃん」
「あたしのほうばっか見て、そんなにあたしのパンツ見たいのか」

「って、そんなわけありません」

「そうか、いまタマちゃんとこのみんが台所に入っていくのがみえたぞ」
「やっぱりたかりゃんはサクランボじゃなくスイカやメロンがすきなんだな」
「このおっぱい星のおっぱい魔人め」

「貴明、おまえ・・・」

「そういうわけじゃないって、もう」
「まーりゃん先輩しつこいですよ」

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

「ごちそうさま」

「ごちそうさまです」

「ごちそうさん」

「うむ、おいしかったぞ」

「おそまつさまでした」

ちょっと早めの夕食を終え、リビングでまったりする4人。

「はい、タカ坊、わたしからのバレンタインチョコ」
「ホワイトデーのお返しはタカ坊のあつーいキッスでいいから」

そういいながらホットチョコレートの入ったカップを置く。

「お、姉貴もって、あいたたたたたた・・・・・・」

雄二のこめかみに環の右手が食い込む!

「あんたは黙ってなさい、雄二」

「きゅーぅ」

床に沈む雄二。

「どう、タカ坊、おいしい?」

「タカ君いーなー」

「たかりゃん、それおいしいって言うのか」

じーっと3人に見つめられる。そんなに見つめられると飲み難いなぁ。

「ん、タカ坊、飲まないの?」
「それとも愛しのタマお姉ちゃんから口移しで飲ませて欲しいのかな?」

「いえ、それは遠慮しておきます」

「そう、残念」

「じゃああたしが飲ませてあげようか、たかりゃん?」

「わたしが飲ませてあげるね、タカ君」

「貴明うらやましいなぁ、ほんと」

雄二が羨ましそうにこっちを見ている。

「丁重に辞退させていただきます」

そう断ってホットチョコレートを一口飲む。

「ん、結構いけるね、タマ姉」

「でしょー、タマお姉ちゃんありったけの愛をこめたからねぇ」

「たかりゃんたかりゃん、あたしにも一口のませてー」

「わたしも飲みたいー」

「はいはい、一寸まっててね、今準備するから」
「私の愛はこもってないからね」

そういいながら台所に戻っていくタマ姉。

   ピンポーン

   ピンポーン

「ん、たかりゃん、誰か来たぞ」

判子を片手に持ちダッシュで玄関に向かう。
待ち望んでいたものが、やっと、やっと届いたかもしれない・・・

「どうもー、FedExです」
「こちらに判子かサインお願いします」

高鳴る鼓動を感じつつ、伝票にサインをする。

「どうもありがとうございましたー」

届いた荷物の送り主の所には

 久寿川 ささら

と書いてあった。

「たかりゃん、とうとう届いたんだね、さーりゃんからのバレンタインチョコレート」

後ろからまーりゃん先輩が覗き込む。

「ええ、やっと届きました」

「たかりゃん、早く開けて見せてよ」

「リビングに戻ってからですよ、まーりゃん先輩」
「って、みせなきゃダメなの?」

「そんな当たり前なこと聞かなくていいぞ、たかりゃん」
「タマちゃんもこのみんもゆーりゃんもみんなみたがってるぞ」
「あきらめろ、たかりゃん」

はぁ、実はみんなそれが目的だったのね。

「さぁ、たかりゃん、早く開けるのだ」
「みんな待ってるぞ」

って、みんなそんな期待に満ちた目でみない!
タマ姉はどんなのか見極めてやろうって眼でみて
るし、このみはほんとにたのしみーって感じで見てる。
雄二は目が羨まし過ぎるぞーって語っている。

「じゃあ、いまからあけますね」

そういって机の上に箱を置く。結構重いぞ、これ。

   がさがさがさ

包装紙を破ると、そこにはちょっと大き目の木箱が出てきた。
其の箱を開ける。中には緩衝材と一通の手紙が入っていた。

「どんなのが入っているのかな」

中に入っているものを傷つけないよう、緩衝材をゆっくりとゆっくりと退かしていく。
送られてきたチョコをみて、無言で手紙の封をきった。

「さーりゃん、やるな」
「うわぁ、おっきー」
「まさか、こんな大胆なものを送ってくるなんて・・・」
「すげぇ」



           愛しの貴明さんへ

            私の愛がいっぱいいっぱい詰まってます。
  
            ささらのおっぱい、た・べ・て(はーと

                      久寿川 ささら



 

                                     Das Ende
お客様の小説に戻る

後書き  思いついたまま書いてみました。 後悔はしていませんとも、ええ。 ちなみに心臓の形をしたチョコレートの話はノンフィクションです。 英語の先生が間違えるなよなorz


感想、誤字、脱字などありましたら作者へのメール、または掲示板まで





inserted by FC2 system