ピンポーン、ピンポーン


「………ん、誰か来た?」

眠い目をこすりつつ枕元の目覚まし時計(タマ姉からの贈り物、アラームの電子音の変わり
にタマ姉の声で起こされる)を見る。

「げ、まだ6時前なのかよ………」
「誰だよこんなあさ………」


ピンポーン、ピンポーン


「タマ姉かなぁ、こんな朝早くから」
「ったく、春休み位ゆっくり寝させてくれよなぁ………」

ベットから降りて階下に向かう。


ピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポーン
「………ク………ス、……ッ……ニ………」


この連打は………またあの人か。毎度おなじみになった高橋名人真っ青な連打と共に今日は
声も聞こえてくる。

「はいはい、今あけますから…」

かちゃり。玄関の鍵を開ける。扉が勢い良く開き、まーりゃん先輩が飛び込んできた。

「たかりゃんたかりゃん、ビックニュースなのだ〜」

「全く、こんな朝早くから何しに来たんですか、まーりゃん先輩?」

「しらないのか?」
「もしかしてたかりゃんのところには連絡来てないのか?」
「まさかさーりゃんに振られたとか」

「振られてはいませんよ」

眠い目をこすりつつぶすっとした声で返事をする。

「で、連絡ってなんです?」

「そうそう、たかりゃんたかりゃん、ビックニュースビックニュース」
「昨日、なんとさーりゃんから今日の9:00に空港に着くって連絡があったのだよ」

 どくん

え、ささらがアメリカから帰ってくる?

 どくん、どくん

「で、今から空港に迎えに行こうと思ってたかりゃんのところに来たんだけど………」
「たかりゃん、可愛いパジャマ着てるなぁ、それ」

普通の水玉模様のパジャマなんですけど。

「早く着替えないとあたしが若さあふれるたかりゃんおいしく頂いちゃうぞ?」

「急いで着替えてくるから何もしないでそこで待っててくださいね」

ささらが帰ってくるささらが帰ってくるささらが帰ってくる。早く準備をして空港まで迎え
に行かないと………

「おまえはお客様に茶の一杯も出さないのかー、この礼儀知らずめー」

後ろで何か声が聞こえたが気にしない気にしない。


年に一度の悪巧み      作 静星 鴉陰




「おまたせしました、まーりゃん先ぱ………」

急いで着替えて玄関に戻ってくるがまーりゃん先輩の姿は無い。その変わり、いつも履いて
いる学校指定の靴がちょこんと鎮座していた。

「ったく、いつもいつも落ち着きがないんだから」

きっと昔の通知表には

『落ち着きがありません』
『もっと周りを良く見て行動しましょう』

って書かれていたに違いない。

「どこにいったのかな?」

リビングから探すとするか。早く空港に行かないと間に合わないよ………。


………………………
………………
………


「ぷは〜〜〜、この1杯の為に生きてきた〜〜〜」

「まーりゃん先輩、何やってるんです?」

「うむ、たかりゃん二等兵、お茶が出てくる様子が無かったから勝手に入れさせてもらった ぞ」

って、あれ、タマ姉が持ってきた八女の玉露じゃ………。勝手に飲むとおしおきされるんだ
よなぁ。前に内緒で飲んだ時も………

「ん、どうしたたかりゃん。そんな青い顔をして?」

「なんでもありませんよ、ほんと…」

はぁ、タマ姉のアイアンクロー確定か………。ま、雄二が飲んだことにしておこう。

「で、もう出なくていいんですか?」

「うむ、この最後の一滴がおいしいのだよって、うわわゎゎ……………」

このままだと動かないから服の襟を持って引きずっていこう。

「こらー、たかりゃん、女の子にはやさしくしないと嫌われるぞー」

「まーりゃん先輩は女性って感じがしませんから」

「………それはあたしの胸を見て言ってるのか」
「やっぱりあたしみたいなつるぺたよりさーりゃんみたいなぼいんぼいんがいいんだな」
「そういえば聞いたぞたかりゃん、卒業式の日にタマちゃんに………」
「ほんとたかりゃんはおっぱい星人なんだから………」

「そこは断固として否定させていただきます」

急がないと、9:00に間に合わないよ。何の為に早く来たんだ、まーりゃん先輩。


………………………
………………
………


『まもなく………搭乗口へ………』

俺の家から片道約2時間程離れたところにある国際空港。ささらを送り出した時とクリスマ
スにアメリカへ行った時に来た位だ。あと少し待てばささらに逢える。そしたら………

「たかりゃんたかりゃん」

つんつん。

「なにぼーっとしてるのかなぁ?」

ふと気が付くとまーりゃん先輩が顔全体に笑みを浮かべて俺の顔を覗き込んでいた。

「え、えっと、ちょっとささらのことを考えた」

クリスマス以来、ささらには逢っていない。今は毎週末に30分、時間を決めて国際電話で
やり取りをしている。あとはバレンタインやホワイトデーの時にチョコを貰ったりクッキー
を贈ったりしたくらいかな。

「Hなことでも考えて………もがもが……」

「いきなりこんなところで何言い出すんですか、まーりゃん先輩」

あわてて両手で口を塞ぐ。ついでに鼻も塞いでしまえ。

「んー、んー、んー」

じたばたじたばたじたばた。

「んー、んー、んー」

じたばたじたばたがぶり。

「ってー」

慌てて手を離す。左手の中指には歯形がくっきりと残っていた。

「たかりゃん何をするんだー」
「いくらあたしが可愛いからって天下の往来で手篭めにしようとは………」
「たかりゃんが望むなら1回¥15,000でいいぞ」

「そのよくまわるへらず口を塞ぎたいんですよ」

むに。今度はまーりゃん先輩のほっぺたを親指と人差し指でつまみ、左右に引っ張る。

「ひゃ、ひゃひほふふんひゃひゃひゃひゃん」

俺の手の甲を思いっきりつねってまーりゃん先輩は後ろに跳び退った。

「痛いじゃないかたかりゃん」
「そんなにあたしに触りたいのか」
「だから言ってるじゃないかたかりゃん。たかりゃんなら1回¥15,000でいいって」

はぁ、やっぱりこの人の相手をしていると普段の3倍は疲れる。

「そんなことよりもうアメリカからの飛行機着きましたよ」
「早く国際線の到着口に行きましょう」

「うむ、分かったぞたかりゃん」
「あたしからたかりゃんに重要な任務を与える」

「なんですか?」

「うむ。非常に重要な任務だ」
「到着口に着いたらこれを頭の上で開いてさーりゃんがすぐ分かるようにしておいてくれ」

そういって手作りの小さい横断幕を差し出した。俺はそれを素直に受け取る。

「結構目立つから目的地に着くまで開かないようにな」

「了解です、まーりゃん先輩」

「で、あたしはさっきから我慢していたトイレにいってくるからたかりゃんは先に迎えにい
 ってくれないか」
「実はもうもれそうなのだよ」
「まぁ飲みたいっていうんなら考えないことも無い………あいたっ」

あんまり変なこと言い出すから拳骨をおみまいしておこう。

「じゃ、たかりゃん。また後ほど会おう」
「はっはっはー」

高らかな笑い声とともにまーりゃん先輩はトイレに向かって猛スピードで走り去っていく。
普段走るスピードより30%位早いなぁ。ま、先に到着口で待ってるとするか。



………………………
………………
………



ん、そろそろアメリカからの到着した人たちが出てくるかな。俺はまーりゃん先輩から言わ
れた通りに頭の上で受け取った横断幕を開く。ささらが帰ってくる。またささらに逢える。
早くささらに逢いたい。そんなことを考えていると自然と頬が緩む。


(くすくす……)
(ひそひそ……)
(ぱぱー………こら、指を指すんじゃありません)


話したい事、電話で伝えられなかった事たくさんある。あと、ささらに早く触れたい。電話
越しじゃない声が聞きたい。そして………


(くすくす………)
(ひそひそひそ………)
(ぷぷっ)


ん、さっきからなにか笑い声が聞こえるなぁ。何かあったんだろうか?


(くすくす………)
(ひそひそひそ………)
(あーいうのって悲惨だよねー)


「???」

いったい何があったんだろうか。それにしてもまーりゃん先輩遅いなぁ。

「あ、あのー」

「はい」

見知らぬ初老の女性に声をかけられた。

「あなた、ここで何をされているの?」

「今日アメリカから友人が帰国するって連絡を貰ったから待ってるんですよ」

「でも、その頭の上の横断幕、『餌を与えないで下さい』って書いてあるわよ」

「え゛、なんですって」

「だから其の横断幕に『餌を与えないで下さい』って書いてあるの」

急いで横断幕を降ろす。見ると

『見た目より凶暴です。餌を与えないで下さい。
 P.S.たかりゃんは今日が何の日か知っているかな』

って書いてある。

「ま、まーりゃん先輩………」

今日は4月1日。ってことはもしかして………うそ………。

「そ、そんなぁ」

思わず床にへたり込む。

「あーっはっはっはっはー」
「ひー、笑いすぎて腹がいてー」
「わーはっはっはっはっはー」

其の瞬間、到着口中が笑い声で包まれた。

「まーりゃん先輩のばっっきゃーろーーーーー」



………………………
……………
………



空港から家に帰るまでにまーりゃん先輩の姿を見ることはなかった。くそぅ、今度あったら
最低でも交通費ぐらいは請求してやる。そう固く心に誓った俺がいた。

その日の夕方。

ぴんぽーん

また玄関のベルが鳴った。

「ったく、今度は誰だよ?」

いつまでも布団の中で不貞腐れていてもしょうがない。布団から出て玄関に向かう。そこに
は息を切らせてはぁはぁ言っている雄二がいた。

「貴明貴明、ビックニュース」
「なんと貴明愛しの久寿川先輩が明日アメリカから帰ってくるって連絡があったぞ」

ふふふ、雄二、お前もそんなことをいうのか………。

「明日の9:00着の飛行機で帰ってくるって連…絡……が………」

俺のただ事じゃない様子を感じたのか雄二の声がだんだんと小さくなっていく。

「なぁ、雄二。実はエイプリルフールでしたーってことはないよなぁ?」

「そ、そんなこ……と………」

雄二の肩を左手で逃がさないようにがっしりと掴む。

「貴明くーん、いったいどうしたんだ?」

「問答無用!!!」

「ぶべらっ」

渾身の力をこめた右ストレートが雄二の左頬に突き刺さる!!そのまま雄二は家の門のところ
まで飛んでいく。

「ど、どうして………エイプリルフールのお茶目な嘘なのに………」

そう呟くと雄二はピクリとも動かなくなった。

「まーりゃん先輩といい、雄二といい全く………」
「あ〜あ、早くささらに逢いたいなぁ」

桜舞うこの季節。もうじき高校生活最後の新学期も始まる。ささらともう高校生活を一緒に
過ごすことはない。寂しいけれどそれが現実。ちょっと玄関で物思いに耽っていると………

「はーい、タカ坊。タマお姉ちゃんの家庭教師の時間よ」
「雄二が門のところで倒れてたけど何かあったの?」

「それは………」

                                    Das Ende





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――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 後書き  やっぱり4月1日はこれよねって事でww まーりゃん先輩ならこれ位はやりかねないって思うけど 皆さんどう思います? これを読んだ皆さんがくすりと笑って貰えたら幸いです ってことで後書き〆


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